ストレステストについて、井野教授(ストレステストに関する意見聴取会のメンバー)が、問題点を手短に説明している。
筆者は、最大の問題点は、当事者によるテストであるということだと思う。そんなことで、政治の産物ではる原発のちゃんとした負荷試験ができるわけもない。安全性など判らない。
ストレステストそのものは、再稼働にお墨付きを与える政治的パフォーマンスだと思う。
ただ、筆者のような人間の考えは、「決めつけである」と思う方もおられよう。そうである証明として、伊野教授のような技術的な議論は必要だろう。専門家による貴重な意見だ。筆者にとっても、自分の考えを確認して、さらに深めていくためにも、必用な議論でもある。
一方、福島の事故の現状をみれば、もはや原発ありきの安全論議をしている時ではない。一端過酷事故になれば、どうなるか?そんなものは、もういらない。というのも事実ではないだろうか?今だ、安全神話の呪縛から完全に解き放たれていない人々に、ストレステストの欺瞞を説くと同時に、再稼働反対を意思表示していきたい。
再度、過酷事故が起こってから悔やんでも、もう、どうにもならないから・・・
毎日新聞 2012年3月1日 東京朝刊
「ザ・特集:ストレステストの問題点 原子力安全・保安院意見聴取会メンバー、井野博満・東大名誉教授に聞く」
http://mainichi.jp/select/jiken/archive/news/2012/03/01/20120301ddm013040225000c.html
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福島第1原発事故を受けて導入された「安全評価(ストレステスト)」。その結果を踏まえ、関西電力大飯原発(福井県)3、4号機では再稼働に向けた手続きが進む。その審議に、「抗議声明」を出した学者がいる。井野博満東京大名誉教授。なぜなのか、聞いてみた。【大槻英二】
◇はっきりしない審査基準
◇事故対策含め、再稼働判断を
◇まず福島第1で有効性検証せよ
井野さんは金属材料学が専門。ストレステストの結果について意見を述べる経済産業省原子力安全・保安院の意見聴取会のメンバーでもある。
ここでちょっと確認しておこう。そもそもストレステストとは、欧州連合(EU)が福島の事故後に行った原発の耐性試験。それを参考に、菅直人前首相が昨年7月、定期検査で停止中の原発を再稼働させる条件として導入を決めた。
--ストレステストを再稼働の条件にすることには問題があるのでしょうか。
井野さん 菅前首相が導入を決めた段階では、再稼働間近だった玄海原発2、3号機の手続きを止めて、地震・津波対策を包括的に見直すという意味はあったと思います。しかし、欧州では、ストレステストは原発の弱点を見つけて改善するのが目的で、再稼働の判断には使っていません。日本では、原発が設計上の想定を超えてどれぐらいの大きさの地震や津波まで耐えられるかを調べる「1次評価」と、炉心溶融などのシビアアクシデント(過酷事故)に至った場合の影響やその対策も含めて総合的に調べる「2次評価」に分け、1次評価のみを再稼働の判断に使うとしています。この点も問題です。
--大飯原発3、4号機の1次評価結果について、保安院は「妥当」として、2月13日、内閣府原子力安全委員会に審査書を出しました。井野さんらは意見聴取会での議論が十分でないと抗議声明を出しましたが、どこに問題があったのですか。
井野さん 審査書には「福島第1原発を襲ったような地震・津波が来襲しても同原発のような状況にならないことを技術的に確認する」と書いてあります。しかし、「福島第1を襲ったような地震・津波」を具体的にどう他の原発に当てはめていくかという判断基準が示されていない。例えば大飯3、4号機は高さ11・4メートルの津波まで耐えられるとしていますが、福島の津波は14メートルありました。つまり、保安院はあらかじめ「津波なら何メートルまで耐えなければならない」というような基準を持っていて「妥当」と評価しているのではなく、事業者が出してきた結果を「後追い」しているに過ぎません。
また、外部電源を喪失して原子炉に冷却水を供給できなくなった場合の緊急安全対策は、電源車や消防車といった非常用設備に頼るとしています。復水器の予備水を使い切るまでには18・7時間ある。11・5時間あれば重機でがれきを取り除き、消防車が到達できるので「十分時間的な余裕がある」と評価している。しかし、大雪や台風のとき、しかも夜間だったら間に合うのか。疑問が残ります。
--井野さんは、ストレステストを真っ先に福島第1原発で行うべきだと指摘されてきました。
井野さん ストレステストはすべてコンピューター上の計算ですから、実際に地震や津波が起きた場合、その通りになるかどうかは分かりません。福島第1で行えば、現実の結果がそこにあるわけで、計算によって福島のような事態を想定できるのかどうか、ストレステストの有効性を検証できる。私の提案を受け、東京電力は津波についてだけ簡単に行いましたが、おざなりなものでした。津波以前に、地震でどれだけ壊れたかが問題なんです。
--意見聴取会には、専門家だけでなく市民も議論に加えるべきだと主張しています。
井野さん 過酷事故が起きた場合、被害を受けるのは地域住民。その視点から安全性を考える必要があります。
原発サイト内の施設は重要度に応じて耐震性がS、B、Cクラスに分けられています。万全を期してほしい住民からすれば「すべてをSクラスで」と思うが、原発の技術者は「それではコスト的に見合わない」などと判断します。ものごとを考える場合に、専門家と市民ではそうした立場の違いから生じるギャップがあるわけです。
技術の世界には「工学的判断」という言葉があります。「100%安全でなくとも大事故の可能性は非常に低いからつくってよい」という発想です。つくってみて失敗しても改善すればいいのですが、原発に限っては事故は許されない。原発は他の技術とは分けて考えるべきです。
--原子力安全委員会の班目春樹委員長が2月20日の記者会見で「安全性を高めるための資料として、1次評価では不十分」と発言しました。どう受け止めましたか。
井野さん まったくその通りだと思います。2次評価を含めて再稼働を判断する条件として考えていただきたい。過酷事故に至った場合、放射能汚染がどれぐらいの範囲に広がるのか、どんな影響緩和策をとっているのかも含めた「2次評価」が出てこないと、住民としては判断がつきません。全原発を対象とした2次評価は昨年末をめどに提出するということでしたが、まだ一件も出てきていません。保安院は催促もしていない。
--原発の安全審査はこのままでいいのでしょうか。
井野さん 福島の事故で、従来の安全審査に不備があったことが明らかになったわけで、新しい枠組みづくりが必要です。そもそも福島の事故は実質的に収束しておらず、詳細な原因も分かっていません。私は基本的に原発は非常に危険であって、地震列島である日本におくべきものではないと考えています。実はストレステストで分かることは、どの原発が非常に危険で、どこが相対的に危険性が低いかということであり、どこから止めるべきかという優先順位でしかありません。
--国内の原発54基のうち、動いているのは2基。5月までにすべて止まる見込みで、夏の電力不足が懸念されています。電気料金の値上げも予定されるなど、原発再稼働への要請が強まっています。
井野さん 昨年の夏、皆さん、家庭でも会社でも一生懸命、節電に取り組みました。それを長期的に続ければ消費エネルギーを減らせるわけで、今こそ「エネルギー中毒」から脱却すべきです。安全を二の次にして、「エネルギーが足りないから、原発を動かそう」ということでは、フクシマから教訓を学んだことにはなりません。
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■人物略歴
◇いの・ひろみつ
1938年生まれ。東京大大学院応用物理学専攻博士課程修了。専門は金属材料学。「柏崎刈羽原発の閉鎖を訴える科学者・技術者の会」代表。編著に「福島原発事故はなぜ起きたか」「徹底検証21世紀の全技術」。
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